キヤノン PowerShot S90 レビュー

シーン自動判別からマニュアル、カスタムモードまで多彩な撮影モードを搭載

撮影モードは上部のモードダイヤルで切り替え、[オート] [プログラム] [シャッタースピード優先] [絞り優先] [マニュアル] [ローライト] [動画] と、各種設定をカスタマイズしてオリジナルのモードとして残せる [C(カスタム)] がある。
[オート] は人や風景など被写体を判断して最適な撮影モードを自動設定する、「こだわりオート」機能が働く。これは例えば歩いている人が被写体の場合、顔検出、動き検出、サーボAF/AEで被写体を追いかけ続ける、というような被写体に最適なモードを自動設定するシーン自動判別機能だ。その判別基準は風景や人物のほか、明暗、青空を含む・含まない、マクロなど22シーンから判別しているとのこと。ただ、実際に利用してみると被写体が人物以外の場合、モニター上では [AUTO] と表示されていることが多く、それだけ多くのシーンから判別しているとは実感しづらかった。

様々なシーンに合わせたモード「スペシャルシーン(SCN)」モードもあり、 [ポ−トレ−ト] [風景] [ナイトスナップ] [キッズ&ペット] [パ−ティ−/室内] [夕焼け] [夜景] [打上げ花火] [ビ−チ] [水中] [水族館] [新緑/紅葉] [スノ−] [ワンポイントカラ−] [スイッチカラ−] [ノスタルジック] [スティッチアシスト] が含まれる。これらモードの切替は上部のモードダイヤルで [SCN] を選び、さらにコントロールホイールで各シーンモードを選択する。

また、オリジナルの撮影モードが残せるカスタムモードの登録は、カスタム登録メニューから現在の設定をそのまま登録することができるため、手軽に残すことができる。
試用中に気になったのが、お借りしたモデルではモードダイヤルの回転が硬めで、目的のモードに合わせるのに手間取ることがあったことだ。ただ、これは個体差によるものかもしれない。

画素数を敢えて抑え、高感度撮影でも高画質を実現

PowerShot S90は1/1.7型CCDで有効1000万画素を採用するが、従来は同じ撮像素子サイズで有効1400万画素といった、より高画素記録が可能なモデルもあった。しかし、撮像素子サイズが同じで画素数だけアップすると、1画素あたりのサイズ小さくなり受光量は減少する。その結果、ノイズの発生など画質の低下に繋がっていた。そこをPowerShot S90では敢えて画素数を上げることをせず、1画素あたりの大きさに余裕を持たせ、低ノイズと高画質化が図られた。さらに、映像エンジン「DIGIC 4」の採用により、高感度撮影に強くなっている。実際に撮影してみたところ、ISO800の高感度撮影でもノイズ感はほとんどなく、充分利用可能なレベルだ。

[シャッタースピード 1/60秒、F2.0、ISO800]
また、最高感度ISO12800に対応する「ローライト」モードでは、記録サイズが1824×1368ピクセルに固定となるが、ローソク1本の明るさでも撮影できる。「ローライト」モードではISOが自動設定となる。今回の試用中では最高感度ISO12800になることはなかったが、ISO1600〜2000では立体感やディテールは失われるが、ノイズのザラつきは少なく用途によっては利用できる。

撮影サンプル

プログラム
シャッタースピード 1/500秒、F5.6、ISO100

プログラム [マクロモード]
シャッタースピード 1/50秒、F2.0、ISO100。
SCN [水族館]
シャッタースピード 1/80秒、F2.5、ISO1250。

プログラム
シャッタースピード 1/100秒、F4.0、ISO100

オート
シャッタースピード 1/200秒、F4.5、ISO200。
ローライト
シャッタースピード 1/60秒、F2.0、ISO800。

100枚のマルチ表示や、コントローラーホイールによる高い検索性を誇る

PowerShot S90 は電源オフの状態から、背面の再生ボタンを押すことで再生モードとして起動することができる。再生モードではズームレバーの操作により、1枚、4枚、9枚、36枚、100枚のマルチ表示に対応する。100枚表示になると、さすがに1枚あたりのサイズが小さくなるが、画像のおおよその内容は判断可能で、表示のレスポンスも良く画像を探しやすい。

また、1枚表示の状態でコントローラーホイールを回転すると、画像が左右方向にスクロールできる検索モードに切り替わる。ただし、ホイールを速く回転しすぎると表示が間に合わず、ホイールを止めても画像表示はしばらくの間スクロールを続けてしまう。画像の保存場所を大きく移動したい場合は、上下キーを押すと日付単位で検索することができる。さらに [マイカテゴリー] として人物や風景のほか、オリジナルのカテゴリーで画像を分類することもできる。

再生モードではセピアやモノクロに色変更ができる [レタッチマイカラー] や、コントラストを強調できる [i-コントラスト] も利用できる。コントラストの調整は強・中・弱の3段階で細かな調整には対応しない。
PowerShot S90にはRAW画像専用の編集ソフトとして、デジタル一眼レフ EOS シリーズと同じ「Digital Photo Professional」が同梱されており、現像と共に色調補正やシャープネスなど細かな調整が可能だ。

約220枚の撮影に対応する専用バッテリーが付属

PowerShot S90 には専用リチウムイオンバッテリー NB-6L と、コンセントに直結できるバッテリーチャージャーCB-2LYが付属する。バッテリーは約1時間55分でフル充電可能で、フル充電の状態から約220枚(CIPA準拠※)の撮影ができる。ボディサイズがほぼ同じ、 IXY シリーズとほぼ同等のバッテリー寿命だ。
※CIPA規格:カメラ映像機器工業会(Camera & Imaging Products Association)が定める電池寿命測定方法についての統一規格。

総論:小さなボディに高画質と高機能が詰まった、まさにハイエンドコンパクト

もともとキヤノンのデジタルカメラは画質面で定評があり、他社と比較しても目の前の薄い膜が一枚剥がれたかのようなクリアさがある。その高画質がPowerShot S90では、さらに磨きがかかっている。それは敢えて画素数を上げずにノイズを押さえた撮像素子と、画像処理エンジン「DIGIC 4」、そしてF2.0の明るいレンズによる賜物だろう。今回は水族館や公園などに出向いて撮影を行ったが、日中の公園では目が覚めるようなクリアな画質で、撮影することができた。

また、薄暗い環境が多い水族館の撮影では、ほとんどオートで撮影していたため自動的に高感度に設定されることが多かった。さすがにクリアという形容は大げさになるが、それでも覚悟していたほどのノイズ感はなく、鑑賞に充分堪えられるその画質の高さには驚かされた。

さらに「コントローラーリング」の採用による操作性は快適で、アナログ的な操作感はクセになりそうで、状況に応じたとっさの設定変更でも快適に行える。それに加えカスタマイズ性の高さも相まって、自分好みのカメラに仕上げていく楽しさも持ち合わせている。

中身的には申し分のないPowerShot S90だが、個人的に物足りないと感じたのが見た目のデザインだ。これまでキヤノンの高級コンパクトとしてはPowerShot G11の系統があり、こちらはメカニカルな印象のダイヤルを採用するなど、中判カメラのようなデザインで人気が高い。それに対してスリムコンパクトのハイエンドとして登場したPowerShot S90は、見た目にIXYシリーズに近い印象で中身のハイエンドさが感じられるような存在感が足りないように感じる。PowerShot S90では敢えて個性的なデザインを避けた、スリムコンパクトを目指したのかもしれないが、もう少し見た目で物欲や所有欲をそそられるような気になる何かが欲しいと感じた。もっとも見た目のデザインは好みによるところが大きいので、ユーザーによっては特に問題とは感じない場合もあるだろう。

そのような気になる点はあるものの、コンパクトなボディに高画質と高機能がぎっしり詰まったPowerShot S90の完成度は高く、これまで使っていたフルオートのコンパクトデジカメでは物足りなくなったユーザーやデジタル一眼のサブとしても活躍してくれるだろう。RAWでの記録にも対応しているので現像ソフトも含めRAWの扱いを勉強したいが、デジタル一眼では大きくて敬遠してしまうユーザーにも好適だ。いずれにしてもデジタルカメラと写真とに、じっくりと向き合いたいユーザーにオススメしたい一台だ。

H-lab:山地啓之)
 キヤノン [ http://canon.jp/ ]
 PowerShot S90
 価格:オープンプライス 最新価格を調べる >>
 発売日:2009年10月16日
  1 / 2
ページのトップへ▲
デジカメの基本から撮影転送編集プリント活用法を幅広くご提供する“カシャリ!”